2006年06月11日

使い分ける「ヘ」「おなら」「B型」「S型」

 屁を「ヘ」と呼ぶか、「おなら」と呼ぶか、微妙な使い分けがあるね。使い分けられる同名異称には心理の奥深い動機があるわけさ。中重徹の『一発』に収録されているエッセイ(和田健治「岡山県医師会報」)でこんな報告と見解が披瀝されている。

 和田は江戸時代の小咄18題を精査して、そこに出てくる「へ」と「おなら」を調べてみたのである。合計25の出現を数えたのだが、その使い方に傾向が出ていた。

 男の会話の中で  「へ」7回   「おなら」3回
 女の会話の中で  「へ」3回   「おなら」6回
 会話以外で    「へ」4回   「おなら」3回

 和田はこう指摘する。@「へ」は男の会話に多く、「おなら」は女の会話に多いAこれに当てはまらない(「へ」と言った)女は女郎、山から出てきた女、下女といった身分の低い者ばかりであるB「おなら」と言った男は大店の旦那、医者、気取ったご用聞きといった教養人ないしはスノッブ的な振る舞いの者であるCこうした会話以外での使われ方は、「へ」と呼ぶときの主語が男の場合は1回、女の場合は3回となるが、このときの女は女郎(2回)と下女(1回)であるDまた「おなら」と呼ぶときの主語はすべて女(女郎2回、嫁1回)ばかりである。

 要するに、概ね「へ」は男性が使い、「おなら」は女性が使う傾向を示すのだが、社会的な身分や価値(品位)を背負うことによって、「へ」は下位の者が使い、「おなら」は上位の者が使う傾向を示すわけだね。

 なぜこうなるのか? 音成の解釈のポイントは「へ」がモノを指し示すのに直接的な表現なのに対して、「おなら」は間接的なぼかし表現(お鳴りの転化)で発生したことにあるのさ。肝心なことをぼかして表現する心理の綾は、〈屁〉の場合、もちろん羞恥に絡む社会関係を背景にして発生したのである。

 和田のエッセイでもう一つ注目したのは次の一節。ここが面白い。

「それはこの気体に付属する音と匂いの問題である。
 そもそもオナラはその発生機転よりみて、二つの型に分けられる。一つは腸内での発酵によるもので、セルローズ・含水炭素・脂肪に由来し、炭酸ガス・メタンガスを主体とするガス量は多く、音の大きい、しかし匂いの少ないもので、芋・豆を食べたあとに出るのが代表的なものである。
 もう一つは腐敗によるもので、消化不良気味のときに出るやつで、ガス量は少ないが、アンモニア・硫化水素を主体として悪臭いちじるしく公害を起こすやつである。
 音の面からは前者は大音かつ低音であるのに、後者は高音または無音である。前者をB(ブー)型、後者をS(スー)型と名づける」

 和田は、B型のときを「おなら」、S型のときを「へ」と呼んでいると指摘して、川柳を例示している。卓見である。

 音に着目するとわかりやすい川柳はこんな感じ。

 屁(S型)をひったより気の毒はおなら(B型)なり
 屁(S型)ならまだいいがおなら(B型)の気の毒さ


 これをニオイに着目するとこういう川柳もある。明らかにS型だね。

 紙帳では自業自得の屁(S型)の匂い
 炬燵の屁(S型)猫も呆れて顔を出し


 さて、あなたは屁を言葉にするとき、「へ派」「おなら派」のどちらであるか? あなたの屁は「B型」「S型」のどちらであるか? 

 実はこの「へ派」「おなら派」「B型」「S型」の関係と表現は四つに組んで深く深く複合しており、解明すべき構造があるように思われるんだけどねー。


posted by 楢須音成 at 12:55| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 閑話一発 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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