2010年03月06日

屁理屈の人と糞度胸の人

 人を罵倒するのに「屁理屈を言うなッ!」と言うことがあるが、音成の場合は言われることが多いわけよ。しかし〈屁〉について語って屁理屈と言われることは実に残念というか…。まあ少なくとも、人から指摘される屁理屈は褒め言葉ではないよなァ。

 小説家、村上浪六の『罵倒録』(1914年、大正名著文庫、東京・至誠堂刊)に屁理屈についての一文がある。音成のテキトー訳で引用してみよう。
 屁は音だけあって形は見えずニオイを発する。その屁を理屈に冠すれば、むだに害だけあって何の益もない無用の論を起こすものだ。
 一例を挙げれば、「泊」と「晒」の文字をあべこべに読んで、泊を「サラシ」、晒を「トマリ」というようなものだ。なんとなれば、水で洗って白くするから泊をサラシ、日が西に入れば旅人が宿を求めるから晒をトマリと読めというのである。また動くはずのドウ(動)と呼んで牛馬は止まり、止まるはずのシ(止)と呼んで牛馬の動くのはなぜだとか、時鳥(ホトトギス)の文字は時を報じ時を告げる鳥の意味なのだからむしろニワトリ(鶏)と読むべきだとか、細根大根(細い根の大きな根)とは何の意味かとか、狭いのに広小路と呼ぶものではないとか――一事が万事いつもこの論法を世の中に振り回して得々としているもの、これが屁理屈だ。つまり馬鹿が自慢する小理屈なのである。
 この馬鹿がさらに一歩進むと、ろくでもない屁理屈で多忙な人を困らすのみならず、しばしば物知り顔に人に教えてこう言う。「正月」は年の初めばかりと思っちゃいけないよ、これを土地の名称にも用いてオオサカと読みなさい。正は正親町(おおぎまち)のオオ(正)であり、月は月代(さかやき)のサカ(月)なんだからさ。
 千万言の名論卓説も一つの事実に及ばないのに、この調子で人生の百般に立ち向かおうとする。もとより世間に通じるはずもないが、さも深いわけがあるかのように自分だけの知恵でこね回して、これを唯一、論のほこ先にしている。正月を大阪と読んで誇るのは多少屁理屈の生やさしい部類だが、もしこれが図に乗れば、黒犬を雪の夜の提灯と読めと(とんでもないものを結びつけて)頑張る奴もいるかもしれない。いやいや、実際それに類する屁理屈は最も世間に多い。つまりは屁理屈は一種の病気なのだ。事の利害得失など一向に構わないで、ただ人の顔さえ見ればこね回して、それで愉快と思うのは、子供が粘土をもてあそぶようなものだ。

 いやまあ、この屁理屈ブログをやっている身にしたら、散々な言われようだ。さらに村上浪六はこうも言っている。
 理屈に屁を冠し、度胸に糞を冠する。屁理屈も糞度胸のいずれも学ある士君子は一顧だにしない捨物である。これを拾って我が物顔に得々としている奴は、どうせ人間のクズだ。
 同じ士君子の捨物も、屁理屈はいささか滑稽味を帯びて、また時に多少は面白味があるだけでなく、元来は罪がないものだ。しかし糞度胸に至っては人情を蹴り飛ばし道理を踏み破って、世間一切をヘチマの皮のように少しも気にとめない。もし進退が窮まるとサァ殺せと大の字になる奴がいて、自暴自棄の極みである。
 しかし進退も窮まらず自暴自棄にも至らないで、まだ十分に反省の余地があり悔悟改悛の時日にありながら、初めから捨て鉢の糞度胸を据えてかかる奴が世間には少なからずいる。昨今のいわゆる胆力家といわれている者は、実は道理を重んじるための胆力ではなく、多くはこの糞度胸のある奴である。
 手前味噌のはなはだしいのは、臭気プンプンの耐えられぬ、その味噌にも似た糞をもって悪度胸を据えた奴だ。もはや手のつけようがなく、あきれて人が相手にしないのを本人ますます調子づき、四方に敵なしの顔色で、誰に憚り何を遠慮することもなく、どいつこいつの容赦なしに、いたるところで大胆に恐れることがないのである。
 廉恥心のない者は廉恥に責められることもなく、徳義心のない者は徳義に苦しむこともない。ぶっても叩いても何の効果もない、この糞度胸で傍若無人に天下を横行する。ややもすれば世人これを誤って偉いもののように思い、規律をもって律することができない大物のように思う。軽挙軽騒のやからはこれを親分とし頭目として、その糞度胸を学ぶ者が多い。しかも下手に学び損ねて糞の突っ張りにもならぬ奴が、これまたすこぶる多いのだ。

 ――そういうことなら、同じクズでも音成はどこまでも屁理屈でよいです〜。

 しかしまあ、屁と糞がこのように語られるのは、その属性を踏まえてのこと。屁の軽さ、糞の重さはいかんともし難いのである。世間を見回すと、屁理屈と糞度胸の違いはアマ(素人)とプロ(玄人)の振る舞いの違いにもなるかねェ。自戒自戒。というか、いつも度胸は糞だし、理屈って〈屁〉なんだけどな。


ラベル: 理屈 度胸 罵倒
posted by 楢須音成 at 17:45| 大阪 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 独舌漫語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。