2009年04月24日

屁のニオイの素に潜む神秘

 硫化水素は悪臭防止法が指定する悪臭として中心的な物質だ。一般に卵が腐ったときのニオイと表現される。何が言いたいのかというと、つまりこれは〈屁〉のニオイなんだよね。だからまあこれは、糞便臭ということになるわけさ。

 糞便臭である〈屁〉のニオイ源となる物質は、微量に含まれている硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH4S)、インドール(C8H7N)、スカトール(C9H9N)などであるが、強力な糞便臭を発散するこれらの物質はなかなかに興味深いものだ。

 例えば、インドールやスカトールは希釈していって低濃度になると、なぜかいい香りを発するようになる物質だ。古来から香水や香料に欠かせない原料の一つになっている。最近の研究によれば〈糞〉や〈屁〉のニオイの主力は硫化水素やメチルメルカプタンの方にあるらしい。化学式を見ると、これらは硫黄と水素の化合物の系統だね。硫化水素は怖い。高濃度(0.1%以上)なら即死に至るほどの毒性を持っている。硫化水素を発生させた自殺がしばしば話題になるが、労働安全衛生法が定める許容限界濃度は5PPM(0.0005%)以下である。また悪臭防止法による市街地における規制基準値は0.02PPM(0.000002%)以下で、微量でも強力なのだ。

   いい香り←――糞便臭――→死の毒性

 糞便臭にまつわる「いい香り」と「死に至る毒性」の両極の方向性というのは〈屁〉が持つ潜在能力だろうか。ははは、まさかねェ。いいニオイの〈屁〉とか聞いたことないし、誰かの〈屁〉を嗅いで死んだという人も知らない。ひょっとしたら〈屁〉を希釈していったらいい香りがするとか、何らかの方法で〈屁〉を濃縮していったら毒性が出るとか…まあ、ないだろうねェ。

 アホな夢想はともかくなのだが、実はこういう科学話がある。ネットで見つけた記事。テキトーに訳してみた。
腐った卵の悪臭の原因となるガス(硫化水素)が新しいインポテンス治療薬の鍵を握っていると専門家は信じている。イタリアのナポリ・フェデリーコ2世大学の研究チームは、ペニス内での硫化水素の放出が勃起を引き起こすことを発見した。Proceedings of the National Academy of Science によれば、研究者たちはバイアグラの代わりになりうるものだと言っているという。勃起不全は十人に一人が悩んでいる。

硫化水素(それは車の排気ガスにも含まれる)が血流を刺激するため、ペニスの神経細胞が弛緩するのを助けることが示唆された。このプロセスは、ペニスのわずかに異なる領域で最初に発見された一酸化窒素が演じる役割とまるで同じだ。それが結局バイアグラの開発を導いたのだ。

研究者はラットで実験を行っただけでなく、性転換手術をした8人の男性から提供された無傷の勃起組織に硫化水素ガスを注射して、この仮説を確かめた。研究者のリーダー、ジウセッペ・シリノ教授は「硫化水素ガスがある程度勃起プロセスに関わっていて、これが新薬の開発を導くのは確かだと思う」と述べた。さらに「ペニス勃起の生理機能の基礎をなしている複雑なメカニズムを解明し、勃起不全や性喚起障害治療のアプローチの新しい道を開くかもしれない」とも付け加えた。

性機能障害者協会(Sexual Dysfunction Association)の会長、グレアム・ジャクソン博士は「新しいインポテンス治療薬の開発を期待する」と述べた。「必ずやバイアグラに代わるものが必要だ。バイアグラは糖尿病の場合はわずかに約60%の人にしか効果がなく、一般の人でも80〜85%しか効果がない」
――BBC NEWS 2009年3月3日


 研究はこちらでも。どうやら製薬会社がらみで開発競争が進んでいるのではないかねェ。
腐った卵の匂いのするこの化合物が、勃起障害の治療に役立つかもしれないという。ノーベル賞を受賞した薬理学者Louis Ignarro教授を中心とするカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のチームによる、ラットを使った初期的な研究でその可能性が明らかになった。

Ignarro教授のチームがラットの陰茎の海綿体平滑筋に硫化水素を注入したところ、平滑筋が弛緩し、より多くの血液が流入するようになった。バイアグラの場合と同様の作用だ。
(後略)
――WIRED NEWS日本語版 2009年3月4日


 しかしまあ、とても〈屁〉にはそんな作用があるとは(音成には)思えんねェ。実験は(低濃度の)硫化水素を当該箇所に注入しているのだから、ニオイによって嗅覚が発動しているんじゃないわけでね。それでも、糞便臭(卵の腐ったニオイ)というやつが、記事で印象深く語られるのに気づかないか。

 断言してもいい〜。このニオイは我々を引きつけるのだ。

 しかも、この糞便臭は逃げ出したい嫌悪感をかき立てる一方で、しばしば奇妙な親近感を呼び覚ますアンビバレントなニオイだ。音成が幼少のころ初めて九州にある地獄谷に行ったとき、一帯の強烈なニオイに鼻をつまみ卒倒しそうになりながら「お父さまの屁のニオイ!」と笑い出してしまった。そしてこの系統のニオイが、強くも弱くも自然界の多くを占めている王者であることに目覚めていったのである。最近はどうだかわからないが、糞便臭は郷愁を醸す田舎のニオイであったよなあ。

 先のWIRED NEWSは続ける。
硫化水素はひどい匂いがするが、生物に対して奇妙で予想外の影響を与える不思議な化合物だ。マウスを使った実験で、硫化水素が仮死状態に似たものを引き起こすことが明らかになっている。[WIRED NEWS日本語版過去記事によると、仮死状態にできるのは、硫化水素は、動物を窒息させる一方で、そこから死へと至る自然の過程を停止させることに基づく。酸素が足りなくなると、通常はタンパク質が異常をきたして自らの細胞を破壊するが、硫化水素はこのようなタンパク質の働きを阻害する。なお、低濃度の硫化水素で線虫を仮死状態にさせ、通常よりはるかに「長生きさせる」研究がある]

硫化水素はまた、戦場で負傷し、大量の血液を失った兵士の生命維持に役立つ可能性もある。さらに、数億年前に起きた大量絶滅の原因になったという説もある。

 ここには硫化水素と生物の、まだ解き明かされない秘密があるようだねェ。そのニオイ(糞便臭)にも秘密があって不思議はない。我々の〈屁〉が硫化水素に支配された糞便臭であることは、生命の神秘に連座する何ものかを示唆するのであ〜る(かな?)。


posted by 楢須音成 at 00:17| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 閑話一発 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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